クルーズ旅行が終わりに近づくにつれて、私は徐々に胸の中で押し寄せる寂しさを感じ始めていた。船が寄港地に到着するたびに、別れの時が近づいていることを感じさせられる。数日間、一緒に過ごした仲間たちや乗客たちが、次々に下船していく。彼らとの楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、名残惜しさを感じる毎日だった。
特に、最初に親しくなった人とは、言葉にできないほどの絆が生まれていた。彼と出会ったのは、船内のカフェで偶然隣の席になったことがきっかけだった。初めはお互いに緊張していたが、会話が弾み、気づけば何時間も一緒に過ごすようになっていた。彼と一緒に観光地を訪れたり、船内で食事を共にしたりするたびに、楽しい思い出がどんどん増えていった。
そして、クルーズが終わり、私たちはついに下船の日を迎えた。その日は曇り空で、少し肌寒い風が吹いていた。船のデッキで、私たちは最後のひとときを過ごすことになった。何も言わずにただ並んで立ち、船が港に近づくのを見つめていた。心の中で、別れが来ることを理解していても、どうしてもその瞬間が現実だとは思えなかった。
「もうすぐ、船が出発しちゃうね」と彼が静かに言った。その言葉が、まるで私の胸を締め付けるように響いた。私は「うん」とだけ答えたが、言葉が出なかった。お互い、何も言わずにただ黙ってその時を過ごしていた。数分後、船はゆっくりと港を離れ、私たちはその場を後にすることになった。
「ありがとう、楽しかったよ」と彼は言った。彼の目には、少し涙が浮かんでいるのが見えた。私はそれを見て、どうしても感情が溢れてきてしまった。「私も、本当にありがとう。こんな素敵な時間を過ごせて幸せだった」そう言って、私は必死に涙をこらえた。彼も微笑んで、私の手を握ってくれた。その瞬間、私は彼と過ごした時間のすべてが、どれほど貴重だったのかを実感した。
そして、ついに船が港を離れ、私は彼と別れることになった。彼が波打ち際に立つ姿を見送ることができなかった。涙がこぼれそうになったが、必死にその場を後にした。船の中から窓越しに見た彼の姿が、ぼんやりと遠くに見え、私はその光景が夢のようで現実だとは思えなかった。
その後、私は心の中で何度も彼に「ありがとう」と伝えた。もしもこの別れが永遠ではないことを信じていたとしても、その瞬間の切なさは忘れることができない。それでも、私たちが共有した時間は、心の中で永遠に生き続けると思った。
クルーズの終わりは、単なる旅の終わりではなく、新しい始まりに向かう一歩でもあった。しかし、あの辛い別れの瞬間を乗り越えることで、私はもっと強くなれると感じていた。そして、次に会える日を心待ちにしながら、私は新しい一歩を踏み出す準備をしていた。
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